DV事案では、「離婚したい」と言うと相手からさらに暴力をふるわれる可能性がありますし、別居しても相手が追いかけてくる可能性があるので、危険を避けながら慎重に手続きを進める必要があります。
今回は、DVで離婚する方法や慰謝料、DV被害者を支援する制度などについて、山口の弁護士が解説していきます。
1.DVは離婚原因になる
DVを受け続けている場合、「相手と離れることはできない。離婚などできるはずがない」と思い込んでしまう方が多数おられます。しかしDVは、法律上の離婚原因になります。
法律は「婚姻関係を継続し難い重大な事由」がある場合に離婚を認めています。相手を暴力で従わせることは、相手の人格を無視した違法な行動です。程度の酷い暴力が続いているなら裁判を起こしてでも離婚できるので、我慢し続ける必要はありません。
DV加害者は、よく被害者に「俺がいないとお前は生きていけない」「離婚するなら自殺する」などと言って脅迫してくることがありますが、そのようなことに耳を貸す必要はありません。
暴力を受け続けていると、身体や生命に危険が及びます。またお子様がいる場合にはその成長過程にも悪影響が及ぶ可能性がありますので、離婚を真剣に検討してください。
2.DVで離婚を進める際の注意点
DVを原因として離婚を進める際、相手からの暴力に注意が必要です。
ただでさえ暴力を振るうような相手に「離婚」を突きつけると、さらにひどい暴力がふるわれて命にもかかわる危険があるからです。
また、子どもを無理矢理連れて行かれる可能性もあります。
DVで離婚を進めるには、あなた自身と子どもを守りながら慎重に対応しなければなりません。
直接話をすると危険がある場合、まずは「別居」をしましょう。相手に知られない場所に賃貸住宅を借りる方法も1つです。
それも危険な場合や賃貸住宅を借りる余裕がない場合には、警察に相談するなどしてDVシェルターを紹介してもらい、しばらくシェルターで過ごしましょう。
DVシェルターには、子どもを連れて行くこともできます。シェルターで生活しながら弁護士に離婚調停を依頼すれば、相手と直接話しをせずに離婚を進められます。
相手が応じない場合、離婚訴訟をすれば離婚することができます。
3.DVと婚姻費用
DV事案で妻に収入がない場合、「別居すると生活費をもらえなくなるので別居できない」という方がおられます。しかし、相手に収入があれば、別居後も「婚姻費用」を請求できます。
婚姻費用とは、夫婦が分担すべき生活費です。法律上、夫婦はお互いに支え合わなければならないとされているので、収入のある側はない側へ生活費を払わねばなりません。
直接請求しても払ってもらえない場合、家庭裁判所で「婚姻費用分担調停」を申し立てれば、調停内で婚姻費用についての取り決めができます。
相手が支払いを拒絶しても、裁判所が相手に支払い命令を下します。それでも相手が支払わなければ、給料や預貯金を差し押さえることも可能です。
経済力がないことを理由に別居や離婚をあきらめる必要はありません。
4.DVで請求できる慰謝料
DVで離婚する場合、相手に慰謝料を請求できます。DVによって発生する慰謝料の相場は、概ね50~200万円程度です。
以下のような場合、慰謝料が高額になります。
- 暴力の程度が酷い
- 暴力が頻繁に振るわれている
- 暴力が振るわれた期間が長い
- けがをして後遺症が残った
ただし、相手に直接「慰謝料を払ってほしい」と言っても応じないケースがほとんどです。慰謝料を支払ってもらうためには、調停や裁判が必要になるケースも少なくありません。
お一人で対応できない場合には、遠慮せずに弁護士の力を頼りましょう。
5.DVで離婚する手順
相手のDVを理由に離婚する場合の手順をご説明します。
DVの程度が酷く、直接話をすると危険な場合には、以下のように進めましょう。
警察に相談に行く
相手から暴力を受ける危険が強い場合、まずは警察に相談に行きましょう。
別居する
警察に相談に行ったら、賃貸住宅を借りたり、DVシェルターに入ったりして別居します。
保護命令を申し立てる
別居後、速やかに保護命令を申し立てます。保護命令が出たら、相手は一定期間あなたや子どもに接触できなくなります。
離婚調停と婚姻費用分担調停を申し立てる
保護命令の効力が継続しているうちに、家庭裁判所で離婚調停と婚姻費用分担調停を申し立てましょう。婚姻費用分担調停が先に成立したら、生活費を受け取れるようになります。
調停が成立したら離婚できる
調停によって相手と合意できたら、離婚が成立します。相手が慰謝料の支払いを受け入れたら慰謝料も払ってもらえます。
調停が決裂したら離婚訴訟を提起する
調停が決裂したら、離婚訴訟を提起します。訴訟には、尋問の日以外にはご本人に出席してもらう必要がないので、ほとんど相手と顔を合わせることはありません。また、裁判所には弁護士が同行するので、相手から暴力を振るわれる心配は不要です。
離婚が成立する
訴訟で判決が出たら離婚が成立します。慰謝料の支払い命令も出してもらえます。
相手に離婚の話を持ちかける
相手と直接話ができる状況であれば、自分で離婚の話を持ちかけてみましょう。ただし、危険があるなら無理をする必要はありません。
離婚することや離婚条件を協議する
相手に離婚を了承させ、財産分与や親権、養育費、慰謝料などの離婚条件を取り決めます。
離婚届と協議離婚合意書を作成する
合意ができたら離婚届と協議離婚合意書を作成します。協議離婚合意書は、後々のために「離婚公正証書」にしておきましょう。
離婚が成立する
離婚届を役所に提出したら離婚が成立します。
協議離婚する場合でも、弁護士が関与しているとスムーズかつ安全に進められるので、当初の段階から弁護士に依頼することをお勧めします。
6.DV被害者を援助する制度について
DV被害者が離婚するとき、以下のような支援の制度があるので是非利用してみてくだ
さい。
DV法にもとづいて、DV被害者は保護命令を申し立てることができます。
保護命令が認められれば、相手は被害者や子ども、被害者の実家の親などに接触できなくなります。
命令に違反すると逮捕される可能性もあるので、たいていの場合には暴力の被害を受ける心配がなくなります。
保護命令の効力は6か月間継続します。それまでに離婚が間に合わない場合には、改めて申し立てることにより、延長させることが可能です。
DVによって別居や離婚をする場合、住民票の閲覧制限を利用できます。つまり、引っ越し先の住所を相手が確認できないようにしてもらえます。
引っ越しの際に役所で閲覧制限をしておけば、相手が住民票を取得して引っ越し先に押し掛けてくる心配がなくなります。
離婚後に嫌がらせを受ける心配などもあるので、DVで離婚するなら必ず役所で閲覧制限を申し出て、適用してもらいましょう。
離婚調停には、当事者も基本的に毎回出席する必要があります。そうなると、相手も同じ時間に家庭裁判所に来るので裁判所の内外で、顔を合わせる可能性が発生します。
DV事案の場合、相手と被害者の呼び出し時間や帰宅時間をずらすことにより、裁判所の外で顔を合わせたりつけられたりするのを防止してもらえます。
また、裁判所の中でも一般の待合室を利用せず、お互いが別々の部屋に待機する「別室調停」とすることで、相手との鉢合わせを防ぐことが可能です。
調停調書に記載する住所も、同居中の住所とすることによって相手に現住所を知られないようにできます。
親身になってお話をお伺いしますので、山口でDVや離婚にお悩みの方がおられましたら、まずはお気軽にご相談ください。