このようなお悩みを抱える方からのご相談をお受けすることがあります。
養育費の不払いが発生したとき、支払いを受けるには法的な対応を含めた適切な対処が必要です。
今回は養育費の不払いが起こったときの対処方法を、山口の弁護士が解説していきます。
1.公正証書があるかどうかで対応が異なる
養育費が払われなくなったときの対処方法は、離婚時や離婚後に「公正証書」を作成しているかどうかで大きく異なります。
公正証書とは、公証人に作成してもらう公文書です。離婚時に作成してもらった場合には「離婚公正証書」、離婚後に作成した場合には「養育費の支払いに関する合意書」などの表題になっています。
「公正証書」を作成して養育費の支払い義務を定めた場合には、約束通り支払われないときに直接相手の給料や資産を差し押さえることができます。
一方、離婚時や離婚後に公正証書を作成していないケースでは、まずは家庭裁判所で「養育費の調停」を申し立てなければなりません。
公正証書があると養育費を滞納されたときの対応が非常に楽になるので、将来の不払いを予防するには離婚時に公正証書を作成しておくようお勧めします。
なお、離婚時や離婚後の合意は「公正証書」にしておかないと差押えはできません。当事者同士で契約書の文面を作成し、お互いに署名押印しただけでは強制執行力はありません。ただし、後で説明する通り、一定の効力は認められます。
2.公正証書を作成しているケースでの対処方法
離婚時や離婚後に公正証書で養育費の支払いについて約束している場合、以下のように差押えに向けた対応を進めましょう。
公正証書を使って相手の給料や資産を差し押さえるには、まずは相手の勤務先や資産内容を把握する必要があります。
離婚時の職場と変わっていなければその会社の給料を差し押さえることが考えられます。相手が公務員の場合も、給料を差し押さえるのが簡便です。
相手の職場が分からない場合や、自営業者の場合などには、預貯金や生命保険を差し押さえることが考えられます。
差押えの申立を行うには、「公正証書の正本」と「送達証明書」「執行文」という書類が必要です。
これらは公正証書を作成した公証役場に申請すれば発行してもらえます。
書類が揃ったら、相手の住所地を管轄する地方裁判所で差押えの申立を行います。
差押えが認められると、裁判所から差押えの決定書が届きます。
たとえば、給料の場合には会社に通知書が届いてから1週間が経過すると取り立てができるようになります。
会社に連絡を入れて振込先などを伝えると、毎月の給料から一定額を直接支払ってもらえるようになります。
賞与月には賞与の一部も振り込まれます。このようにして不払いの養育費の支払いを受けられるようになります。
3.公正証書を作成していなかったケース
離婚時や離婚後に養育費に関する公正証書を作成していない場合には、基本的に家庭裁判所で「養育費請求調停」を申し立てる必要があります。
養育費請求調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
申立の際には以下の書類が必要です。
● 調停申立書
● 子どもの戸籍謄本
● 申立人と相手方の収入資料(給与明細書や源泉徴収票など)
上記書類に収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手をつけて提出すると、申立手続きができます。
調停では、裁判所の調停委員を介して申立人と相手方が養育費についての話し合いをします。
養育費にはお互いの収入状況に応じた相場の金額があるので、調停委員からどのくらいの金額が相当か教えてもらえますし、調停案を提示してもらえるケースもあります。
お互いが納得すれば調停が成立します。
合意できない場合には養育費調停が「審判」という手続きに移行し、審判官(裁判官)が適切な養育費の金額を定めて相手に支払い命令を出します。
審判内容は「審判書」という書類になり、当事者双方のもとへ送られてきます。
相手が調停や審判で決まった養育費を支払わない場合、どうすれば良いのでしょうか?
調停や審判の決定事項には強制力があるので、公正証書があるときと同じように相手の給料や預貯金、生命保険などの資産を差し押さえることが可能です。
差押えを申し立てるとき、調停の場合には「調停調書」、審判の場合には「審判書」と「確定証明書」が必要です。
・審判の場合には審判書を受け取ってから2週間後以降に裁判所に申請して「確定証明書」を取得する
審判で養育費支払命令が出たときには、審判書を受け取ってから2週間以内に当事者が即時抗告しないと審判内容が確定します。
まずは審判書受取後2週間が経過してから家庭裁判所へ申請して確定証明書を入手しましょう。
・家庭裁判所に申請をして「送達証明書」と「執行文」を入手する
調停の場合にも審判の場合にも「送達証明書」と「執行文」が必要です。これらの書類も家庭裁判所に申請して取得します。
・相手の勤務先や資産を調査する
差し押さえをするためには相手の勤務先や、預金取引をしている金融機関、契約先の生命保険会社などを調べる必要があります。
・地方裁判所で差押えの申立をする
情報と資料が揃ったら、相手の住所地を管轄する地方裁判所で差押えの申立をします。
不備がなければ手続きが進み、相手の給料や預貯金、保険などを取り立てられます。
相手が会社員や公務員なら給料を差し押さえるのがもっとも確実です。
そうでない場合には預貯金や生命保険、それらも不明なときには不動産や車などの差押えを検討しましょう。
4.いつからの分の養育費を払ってもらえるのか
不払いの養育費を調停で請求するとき「いつからの分を払ってもらえるのか」を意識する必要があります。
基本的に養育費は「請求時から」の分しか支払ってもらえません。
具体的には調停申立時までの分しか遡られないので、調停を申し立てようかどうか迷っている期間はもったいないです。
養育費が不払いになったら、なるべく早期に養育費請求調停を申し立てましょう。
5.公正証書にしていない合意書がある場合
離婚時、公正証書にしていない合意書(自分たちで作成した合意書)がある場合にもまったく意味がないわけではありません。
合意書に定められた通りの支払いが行われなかった場合、滞納分を「通常の民事訴訟」で請求すれば払ってもらえるからです。
つまり、離婚時に自分たちで合意書を作成しておけば、養育費調停申立前の滞納分も払ってもらえるということです。
ただし、そのためには訴訟が必要となります。
一方、将来分については毎月の養育費などは訴訟でも請求できないと考えられますが、「大学の授業料」などはっきり金額が決まっているものであれば、支払い命令を出した裁判例もあります。
まとめ
相手が養育費を払ってくれないとき、公正証書があれば地方裁判所で差押え、なければ家庭裁判所で調停を申し立てなければなりません。
必要書類を集めたり、手続きの内容を理解するために、弁護士に相談することが必要になるかもしれません。
山口で養育費の不払い問題にお悩みであれば、お早めにご相談ください。