相手に浪費や借金癖がある場合、離婚できるのでしょうか?
また、相手の浪費を理由に離婚するとき、慰謝料は請求できるのでしょうか?
法律上「相手が浪費家」というだけでは離婚が認められない可能性がありますが、浪費によって家計を破綻させられたのであれば離婚できる可能性があります。
今回は、相手が浪費家で困っている場合に離婚できるケースとできないケース、慰謝料請求や離婚の進め方について、山口の弁護士が解説します。
1.浪費が法律上の離婚原因になるケースとならないケース
民法は、裁判によって離婚できるケースを限定的に定めています。その中に浪費は含まれるのでしょうか?
民法の定める離婚理由を「法定離婚理由」「法律上の離婚原因」などといいますが、具体的には以下の5つが該当します。
- 不貞
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復しがたい精神病
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
パートナーの浪費や借金癖は①~④には該当しないので、⑤の「婚姻関係を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが問題です。
「婚姻関係を継続し難い重大な事由」に該当するのは、DVやモラハラなど、相手の人格を無視した言動がある場合や長期間別居状態が続いて夫婦関係の実態がなくなっている場合などです。
このことからすると、「単に浪費や借金癖がある」だけでは婚姻生活を継続し難い重大な事由に「あたらない」と認定される可能性もあります。
しかし、相手が浪費や借金をして、家の生活費にも手をつけて夫婦生活を破綻させた場合には裁判所も「婚姻関係を継続し難い重大な事由」と認定する可能性があります。
たとえば以下のようなケースでは、浪費や借金を理由に裁判で離婚が認められる可能性があります。
- 配偶者がパチンコなどにはまって浪費を繰り返し、生活費を使い込んで家族の生活ができなくなっている
- 配偶者が浪費のために消費者金融で借金をして、返済のために生活費を使い込んだため家族の生活費がなくなった
- 配偶者が給料を管理しているが、浪費しているので生活費を渡してくれない
- 配偶者が勝手に財布や口座からお金を抜き取っていくので、家族の生活費に充てる分がなくなった
浪費や借金癖を理由に離婚したい場合には「相手の浪費や借金によって家計を破綻させられたか」が1つの基準となります。
2.相手と合意の上で協議や調停で離婚することは認められる
「協議離婚」や「調停離婚」する場合には、法律上の離婚理由は不要なので、浪費が理由でも離婚できます。
日本では、離婚する夫婦の9割以上が「協議離婚」です。協議離婚とは、夫婦が自分たちで話し合い、合意して離婚する方法です。離婚届を作成して役所に提出するだけで離婚が成立します。
協議離婚の場合、法律上の離婚原因の有無は問題になりませんので、相手の浪費や借金癖に我慢できないという理由でも相手が納得したら離婚できます。
協議離婚したいときには、役所から離婚届をもらってきて作成し、夫婦がお互いに署名押印をして提出しましょう。
調停離婚は、家庭裁判所における「離婚調停(夫婦関係調整調停)」を利用した離婚の方法です。調停で調停委員を回して夫婦が話し合い、お互いに離婚することや離婚条件に納得できれば離婚が成立します。
調停離婚の場合にも離婚理由は問題にならず、夫婦の双方が「離婚する」と決めれば離婚が成立します。
調停の席で、夫婦が離婚することと財産分与や慰謝料、親権などの離婚条件に合意すれば調停が成立します。後に裁判所から送られてくる調停調書を持って役所に行き、離婚届を提出しましょう。
このように、相手の浪費に悩んだとき、相手が離婚に合意さえすれば協議離婚や調停離婚の方法で離婚できます。浪費家の相手と離婚したいなら、まずは話し合って離婚に応じるよう説得するところから始めましょう。
3.浪費以外にも離婚理由がある場合には裁判で離婚できる
冒頭で説明したとおり、裁判で離婚するには基本的に「浪費によって家計が破綻させられた事情」の立証が必要です。
ただし、浪費以外にも「法律上の離婚理由」があれば、離婚を認めてもらえる可能性があります。たとえば以下のような場合です。
- 相手が浪費や借金をして働かず、家にお金を入れてくれない
妻が専業主婦の場合などで、相手が浪費や借金ばかりして仕事をせず家にお金を入れない場合「悪意の遺棄」が成立して離婚原因として認められる可能性があります。 - 相手が浪費や借金の果てに家出をした
相手が浪費や借金をして、家を出て行った場合にも「悪意の遺棄」が成立して離婚原因として認められる可能性があります。 - 相手が暴力を振るう
暴力は「婚姻関係を継続し難い重大な事由」として離婚原因となります。 - 浪費家の相手が不倫した
浪費や借金癖のある相手が遊び人で、別の女性と不倫した場合などには離婚原因として認められます。
4.相手の浪費で離婚するときの慰謝料
相手の浪費が酷くて離婚せざるを得なくなった場合、慰謝料を請求できるのでしょうか?
まず、相手の浪費が家計を破綻させるほどの程度の酷いもので、裁判上の離婚理由として認められるケースであれば、慰謝料が認められる可能性があります。
裁判例でも、妻がパチンコにはまって消費者金融からお金を借りて夫の財布や口座からお金を抜き出し夫婦関係を破綻させた事例において、妻に100万円の慰謝料支払いを命じたものがあります(東京地裁平成22年5月19日)。
浪費が直接夫婦関係破綻の理由にならず、夫婦間で話し合って協議離婚や調停離婚する場合には慰謝料は認められないケースが多いといえます。
たとえば相手が浪費しつつも、きちんと家にお金を入れて夫婦の生活が成り立っていた場合などです。
協議離婚や調停離婚の場合でも、相手が自ら慰謝料や解決金を支払うことに合意すれば、法律上慰謝料が発生するかどうかにかかわらず支払いを受けられます。
5.浪費家の相手から慰謝料を回収する2つの方法
相手が浪費家の場合、慰謝料の約束をしたり裁判所から支払い命令が出たりしても、回収が難しくなりやすいので注意が必要です。浪費家の相手には「お金がない」からです。
そもそも、浪費家や借金癖のある相手と離婚することになったのは、「相手にお金がなく家族で暮らしていくのが大変だから」でしょう。
相手にお金があるなら離婚の必要はないはずです。そんな相手からまとまった金額の慰謝料を取り立てるのは大変です。
その場合、以下のような対処が可能です。
夫婦に預貯金や社内積立、車や生命保険などの財産があれば、慰謝料に代わる財産分与としてすべてや大部分をこちらが受け取ります。
相手が上場企業などのサラリーマンや公務員などの場合、離婚後も仕事を辞めない可能性が高いです。その場合、分割払いで慰謝料を払う約束をして「離婚公正証書」を作成しましょう。すると相手が後に支払いを滞納したときでも、給料を差し押さえることによって慰謝料を回収できます。
6.浪費家のパートナーと離婚を進める方法
浪費家のパートナーと離婚したい場合には、まずは相手と話し合いをしましょう。相手が離婚に応じるなら、できるだけ多くの財産分与を受けて協議離婚するのが最善です。慰謝料の約束ができれば公証役場に申し込んで離婚公正証書を作成します。
相手が同意しないなら、家庭裁判所で離婚調停を申し立てます。調停でも、なるべく多くの財産分与を受けることを目指し、慰謝料の支払いも求めると良いでしょう。
調停が不成立になった場合には、訴訟を起こすかどうか検討しなければなりません。浪費によって生活が破綻させられたことを立証できそうな場合や他の離婚理由がある場合、訴訟を起こしましょう。
それが難しそうであれば、いったん別居して家計を別にして、あらためて相手と協議や調停による話し合いをするか、時期を置いて「長期間の別居」を理由に離婚訴訟を申し立てます。
不利益を受けないため、当初から弁護士に相談をしておきましょう。山口でパートナーの浪費や借金問題にお困りなら、お気軽にご相談ください。