子どもも成人したし、離婚して新たな人生を歩みたい
最近、こうした考えで高齢になってから離婚を選択する方が増えており「熟年離婚」という言葉もすっかり定着しています。
ただし、熟年離婚は、思っているほど簡単ではありません。きちんと計画立てて進めないと、離婚後に思ってもみなかったリスクを背負ってしまいます。
今回は、熟年離婚やシニア世代の離婚を成功させるためのポイントを山口の弁護士がご紹介していきます。
1.熟年離婚するときに考えておくべきこと
「熟年離婚しようか」と頭をよぎったら、まずは以下のような点を検討しましょう。
離婚したら、自分一人で生活を維持する必要があります。特に専業主婦だった方の場合、配偶者の収入がなくなるので自分で生活費を稼がなければなりません。
離婚の際、まとまった財産分与をもらえるから何とかなると考える方もおられますが、長い人生において財産分与のお金だけでは不足する可能性があります。
将来介護が必要になったり大きな病気をして大金が必要になったりするケースもあるので、軽く考えてはなりません。
最低限、生活費として支出する分くらいは収入を得られる「あて」がある状態で離婚すべきです。
特に男性に多いのですが、婚姻生活で配偶者に家事をすべて任せていた方は要注意です。
日本では家事を労働として評価しない傾向がありますが、家事をやったことのない人が家事をすると大変な労力と感じます。
離婚したら一人で掃除、洗濯、食事の準備などすべてやらなければなりません。身の回りのことができないのに「勢い」で離婚してしまうと、後悔につながります。
熟年離婚するときには、健康面についても配慮が必要です。たとえば、持病が悪化して入院や介護が必要になる可能性もあります。
パートナーがいれば頼ることもできますが、いなかったら一人で解決しなければなりません。健康状態に自信があってもいつ何時どんな病気になるかわからないので、一人で何とかする覚悟が必要です。
以上のようなことを考えてもなお「相手に頼りたくない」「一人で生きていきたい」という場合には、熟年離婚を進めていきましょう。
以下では、「熟年離婚するときに重要な法律的なポイント」を説明していきます。
2.財産分与
熟年離婚では「財産分与」が非常に重要です。財産分与とは婚姻中に夫婦が共同で形成した財産を分ける手続きです。
熟年離婚の場合、婚姻生活が長いので共有財産が多額になっている傾向があります。
財産分与の割合、財産の評価方法、お互いの退職金を財産分与に含めるなどで争いが発生するケースも多々あります。
財産分与では、夫婦の共有財産を2分の1ずつに分けるのが基本です。
妻が専業主婦の場合「専業主婦は収入がなかったから財産分与を減らすべき」と主張する夫がいますが、法律ではそういった考えをとっていません。
お互いの財産を開示し合い、それぞれを評価して公平に2分の1ずつにするのが通常です。
ただし、両者が納得する場合には、2分の1と異なる割合にすることも可能です。
退職金を財産分与の対象に含めるかどうかで問題になることが多々ありますが、少なくとも以下のような場合には財産分与の対象になりやすいといえます。
・離婚後10年以内に退職金が支給される予定がある
・退職金が支給される蓋然性が高い(上場会社や公務員の場合など)
すでに支給されている退職金は、基本的にすべて財産分与の対象となります。
配偶者が退職金を使い込みそうな場合には、支給前であれば退職金の請求権を仮差押えできますし、支給後であれば預貯金口座などを仮差押えして凍結させ、守ることができます。
3.婚姻費用
特に専業主婦の妻が熟年離婚を求める際には婚姻費用が重要です。
婚姻費用とは、離婚前の別居中に配偶者に求めることのできる生活費です。相手方が離婚を拒絶している場合など、「別居したんだから生活費を支払わない」と主張するケースが多々あります。
しかし、法律によって配偶者に生活費を求める権利が保障されています。家庭裁判所で「婚姻費用分担請求」を行うと、夫婦の収入状況に応じて生活費を払ってもらえる可能性があります。
4.年金分割について
熟年離婚するなら、年金分割も検討しましょう。年金分割とは、夫婦が婚姻中に払い込んだ年金保険料を按分して、年金額に反映する手続きです。
配偶者が厚生年金や共済年金に加入していれば年金分割できます。
平成20年4月以降の年金保険料については、相手の扶養に入っていたら「3号分割」が適用されて相手の同意なしに年金分割ができます。
それ以外の場合(扶養に入っていない場合や平成20年3月以前の年金保険料について)は「合意分割」が適用されるので、分割のために相手の合意が必要です。
とはいえ、離婚時に訴訟をしたり、離婚後に「年金分割調停」を申し立てたりすると、裁判所が年金分割を2分の1とする決定をするのが通常であり、最終的には2分の1ずつに分けてもらえます。
年金分割できるのは離婚後2年以内なので、離婚時に相手の合意を得られなかったときには早めに裁判所へ申立をしましょう。
5.相続との兼ね合い
熟年離婚するなら、相続との兼ね合いも検討すべきです。
相手が先に亡くなったら「遺産相続」できて「遺族年金」も受け取れます。
遺産相続の対象は夫婦共有財産に限られないので、財産分与よりも多くの財産を得られる可能性もあります。
また、年金分割してもらうよりも遺族年金の方が高額になるのが通常です。
相手との同居に耐えられない事情があれば別居するという選択肢もありますし、離婚してしまうのではなく少し我慢して様子を見るのも選択肢の1つといえます。
熟年離婚には若い方の離婚と異なるさまざまな注意が必要です。
弁護士がアドバイスやサポートを行いますので、山口で離婚にお悩みであればお気軽にご相談ください。