年金分割をすると、将来受け取れる年金額が増額される可能性がありますが、一般にはまだまだ正しく理解されていないことが多いので、これを機会に正確な知識を押さえておきましょう。
今回は、離婚時年金分割の制度について、山口の弁護士がご説明します。 離婚時年金分割とは、夫婦が離婚するときに、婚姻中に払い込んだ年金保険料を按分する(分け合う)手続きです。 年金分割の対象になるのは、「婚姻中に」払い込んだ年金保険料なので、婚姻期間が短い夫婦の場合には年金分割で増額される金額は小さくなります。 年金分割をするときには「対象になる年金」を把握しておく必要があります。 これらに対し、国民年金(基礎年金)については年金分割の対象になりません。 年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。 3号分割は、夫婦の一方が3号被保険者(夫の扶養に入っている妻など)である場合に適用される年金分割です。 年金分割を行う手続き・方法をみてみましょう。 ■年金分割の情報通知書を入手する ■配偶者と話合いをする ■標準報酬改定請求書を提出する ■離婚前なら離婚調停、離婚訴訟をする(合意できない場合) ■離婚後なら年金分割調停を行う 調停や判決、審判によって合意分割が決定された場合には、判決書、調停調書、審判書などの裁判書類を年金事務所に持参すると、請求者単独で年金分割の手続きができます。 3号分割の要件を満たしている場合には、相手の同意が要らないので、請求者単独で年金事務所に行って、年金分割の申請をすることができます。 離婚後に年金分割をするときには、期限があるので注意が必要です。
1.年金分割とは
按分の対象になるのは払い込んだ「年金保険料」であり、「年金」そのものを分けるわけではありません。
年金分割を行うと、年金事務所の方で自動的に年金額を調整してくれて、増額あるいは減額された年金が振り込まれます。元の配偶者に振込みなどをしてもらう必要はありません。
年金分割によって増額(あるいは減額)された年金を受け取れるのは、「自分が年金を受け取れる年齢になったとき」です。
相手が年上の場合、相手が年金を受給し初めても、自分が年金受給年齢になるまでは、増額分を受けとることはできません。
婚姻期間が数年程度であれば、増額分は月額千円~数千円程度にしかなりません。
年金分割を受けるメリットが大きくなるのは、熟年離婚などで婚姻年数が長い夫婦のケースです。
また、「年金が半額ずつ」になる制度ではないので、熟年離婚の場合であっても、年金額の増額分は月額2~5万円程度におさまるケースが多いです。
2.年金分割の対象になる年金
年金分割の対象になるのは、厚生年金と共済年金のみです。
厚生年金は、配偶者が会社員やパートアルバイトなどで、会社の社会保険に加入している場合の年金です。
共済年金は、相手が公務員や準公務員である場合に共済組合に加入している場合の年金です。
会社員や公務員の年金制度は、基礎年金と厚生年金(または共済年金)の2段階の構造になっています。
この場合、基礎年金部分については分割の対象にならず、その上の厚生年金あるいは共済年金の部分だけが年金分割の対象になります。
また、相手が自営業者などで国民年金にしか加入していない場合、分割の対象になる年金がないので、離婚時年金分割の制度を利用することはできません。
3.年金分割の種類
合意分割とは、夫婦が話し合いをすることにより、年金の按分割合を決めて、自主的に行う年金分割です。
夫婦の双方が会社員の場合や公務員の場合などでも利用できます。合意分割の按分割合は0.5(2分の1)までの割合で自由に決められます。
3号分割の場合、年金分割の請求者(被扶養者の妻)は、相手(夫)の合意が得られなくても一人で年金分割の手続きを行うことができます。
3号分割の按分割合は0.5(半分ずつ)となります。
ただし3号分割が適用されるのは、平成20年4月以降の年金保険料のみです。
それ以前から婚姻していた夫婦の場合には、たとえ妻が3号被保険者であっても、3号分割だけではなく合意分割も必要になります。
4.年金分割の方法
合意分割を行うときには、まずは「年金分割の情報通知書」という書類が必要です。
管轄の年金事務所で申請をすると、2~3週間後に自宅に送付してもらえます。
年金分割の情報通知書が届いたら、配偶者との間で年金分割について話合いをします。
そして、相手に年金分割に同意してもらい、按分割合を決定します。
按分割合は0.5までの範囲で設定できますが、後述する通り、調停や審判をすれば0.5になるので、請求側としては0.5とすることを目指しましょう。
話合いで合意できた場合には、離婚後速やかに夫婦が年金事務所に行き、標準報酬改定請求書を提出して年金分割の手続きを行います。
相手と一緒に年金事務所に行きたくない場合には、委任状を書いて代理人に依頼することもできますし、年金分割の合意書を「公正証書」にしておけば、請求者が単独で年金分割の申請をすることも可能です。
話合いでは解決できない場合、離婚前であれば離婚調停や離婚訴訟の手続き内で、年金分割について決定する必要があります。
離婚調停で話合いをして、合意できなければ離婚訴訟によって裁判所の判断を仰ぎます。
ただ、年金分割以外のすべての点で合意ができているのであれば、あえて離婚調停を不成立にせず、離婚を先行させることが多いです。
年金分割だけのために離婚訴訟を行うのは大変な手間になるからです。
この場合、離婚後に積み残した年金分割の問題については、次に説明する離婚後の分割調停によって解決を図ります。
離婚後に合意分割を行いたい場合「年金分割調停」を行うことにより、家庭裁判所で年金分割についての話合いを行います。
年金分割調停が不成立になると、「審判」となって、裁判所が年金分割と按分割合を決定します。
離婚訴訟の判決や年金分割の審判によって年金分割の判断が行われる場合には、年金分割の按分割合は0.5(2分の1ずつ)となります。
この場合には「年金分割情報通知書」も不要ですし、相手の合意が不要なので調停や審判、裁判をする必要もありません。
5.年金分割の期限
離婚後の年金分割の期間は離婚成立日から2年です。
2年を超えると、調停や審判をしても年金分割を認めてもらえなくなるので、年金分割を希望するなら、早めに手続きをしましょう。
なお、2年以内に年金分割調停を申し立てれば、調停の最中に2年が経過しても年金分割を受けられます。
離婚後2年であれば年金分割を請求できますので、年金分割を受けたい方は、すでに離婚されている方も含めて、お気軽に山口の弁護士までご相談ください。